こんにちは、中小企業診断士×薬剤師の「はらだ」です。
複数の施設を展開する医療関係の経営者の方とお話しする中で、こんなご相談をよくいただきます。
「全社で経費削減に取り組んでいるのに、手元に利益が残らない」
「拠点ごとの数字はなんとなく肌感で分かっているつもりだが、正確に分析できていない」
診療報酬の改定や医療従事者の人件費高騰など、外部環境が厳しさを増す昨今、会社全体の「売上」だけを見て対策を講じることには限界があります。
今回は、自社の財務状況を正しく把握し、スピード感のある経営判断を下すための「管理会計」と、その核となる「貢献利益」、そして具体的な対策を打つための「指標の掛け合わせ」についてお伝えします。
「全社一律の施策」が空回りする理由
業績が伸び悩んだとき、つい「会社全体で患者数(利用者数)を〇%上げよう」、「全拠点で残業代を削減しよう」といった一律の施策を講じてしまいがちです。
しかし、医療現場は拠点ごとに状況が全く異なります。立地条件や提供するサービス内容、「ベテランが多い」「若手が多い」といったスタッフ構成による費用構造の違いです。
特定拠点に大きな課題がある場合、全社一律の施策をいくら講じても効果は薄れてしまいます。
「どの拠点に集中的な改善策を講じるべきか」という判断基準を持たないまま動いてしまうと、貴重な経営リソースや時間を浪費することになりかねません。
経営判断を狂わせる「売上至上主義の罠」
そこで必要となるのが「管理会計」の視点です。
会計といっても、1円単位まで正確に計算する必要はありません。欲しいのは、あくまで意思決定を速くするための「物差し」です。
中でも、多拠点展開するビジネスで必ず把握すべき指標が「貢献利益」です。
貢献利益 = 売上高 - 変動費 - 個別固定費
- 変動費:患者数・利用者数に連動して発生する費用(医薬品や医療材料の仕入など)
- 個別固定費:その拠点が存在することで直接発生している費用(拠点に所属するスタッフの人件費、家賃、リース代など)
ポイントは、役員報酬や本部システム代などの「共通固定費(本部経費)」は引かないという点です。
言葉だけではイメージが湧きにくいので、3つの拠点(A・B・C)を展開する企業の具体例を見てみましょう。
| 拠点名 | 売上高 | 変動費 | 個別固定費 | 貢献利益 |
| A拠点 | 5,000万円 | 2,000万円 | 3,200万円 | -200万円 |
| B拠点 | 2,000万円 | 400万円 | 600万円 | +1,000万円 |
| C拠点 | 3,000万円 | 900万円 | 1,500万円 | +600万円 |
- A拠点(実は赤字):売上はダントツのトップ。「うちの稼ぎ頭だ」と思われがちですが、実は人件費や家賃などの固定費が重く、貢献利益はマイナス。存続させているだけで会社全体の現金を奪っている状態です。
- B拠点(隠れた優良拠点):売上は一番低いですが、効率的な人員配置や家賃の安さなどにより、貢献利益は+1,000万円。この小さな拠点が、会社全体の共通費(共通固定費)を支えてくれているのです。
多くの企業では、共通固定費を「各拠点の売上比率」で割り振って利益を計算しがちです。
すると、売上の高いA拠点はさらに赤字が膨らみ、理由もわからないまま「とにかくA拠点の売上をもっと上げろ!」と誤った指示を出してしまいます。赤字の構造のまま売上を追えば、傷口はさらに広がりかねません。
個々の拠点が持つ「本来の稼ぐ力(貢献利益)」を可視化しなければ、真の課題は見えてこないのです。
複数の指標を掛け合わせ、拠点特有の「真の課題」を見抜く
貢献利益を把握すれば、「どの拠点が赤字なのか(どこにメスを入れるべきか)」がわかります。
しかし、「なぜ赤字なのか」「具体的にどう改善すればいいのか」というアクションに繋げるには、貢献利益とともに他の経営指標を掛け合わせて分析することが効果的です。
とくに医療関係のビジネスで必ず確認したいのが、以下の2つの指標です。
1. 粗利率: (売上高 - 変動費) ÷ 売上高
提供しているサービス自体の稼ぐ力を示します。この指標が他拠点より低い場合、「医療材料や医薬品のロスが多い」「利益率の低いサービス(診療内容)に偏っている」といった課題が浮かび上がります。
対策としては、仕入先の見直しや在庫管理の徹底、注力するサービスメニューの変更などが挙げられます。
2. 労働分配率: 人件費 ÷ 粗利益
生み出した利益に対して、どれだけ人件費がかかっているかを示します。医療・福祉業界は人件費率が極めて高いため、このコントロールが命綱です。
もしA拠点の労働分配率が異常に高い場合、「人員過剰(シフトの組み方の非効率)」「有資格者が誰でもできる事務作業に追われ、生産性が落ちている」といった課題が見えてきます。
対策として、シフトの最適化や、事務作業をIT・AIツールに代替させる業務改善にピンポイントで取り組むことができます。
このように、「貢献利益で異常を検知し、粗利率や労働分配率で原因を特定する」というステップを踏むことで、的外れな対策を防ぎ、その拠点が抱える特有の課題に対してクリティカルな一手を打つことができるのです。
経営判断における注意点
数字による分析は非常に強力ですが、医療系ビジネスならではの注意すべき点もあります。
- シナジー(相乗効果)の考慮:仮に貢献利益がマイナスでも、「その拠点があることで地域医療・介護の連携窓口になっている」「採用時のブランディングに繋がっている」といった波及効果がある場合は、安易な撤退判断は避け、慎重に検討する必要があります。
- 単純比較による評価への適用注意:貢献利益だけで拠点長の評価を決定することには注意が必要です。「最新の医療機器を導入したばかりで減価償却費(個別固定費)が重い」など、拠点ごとの前提条件が異なるためです。背景を考慮せずに評価へ直結させると、現場の不満に繋がります。
おわりに
医療の経営環境の変化が激しい今だからこそ、「全社一律の感覚的な対策」から抜け出し、自社に合った経営判断の「物差し」を持つことが重要です。
まずは自拠点の「貢献利益」をざっくりと把握し、異常があれば他の指標を掛け合わせて深掘りする。そこから、経営改善の一歩を踏み出してみませんか?
では、また!



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