こんにちは、中小企業診断士×薬剤師の「はらだ」です。
以前のブログで、組織の自走を促す「エンパワーメント」や「モチベーションの管理」についてお話ししてきました。
現場の業務改善や安全管理を進める中で、多くのリーダーが直面する大きな壁があります。それが、「現場でのミスの発生」と「その報告の滞り」です。
今回は、ヒヤリハットなどのインシデント報告を個人への叱責で終わらせず、組織の改善へ繋げる「仕組み化」のアプローチと、その仕組みを機能させるための「心理的安全性」の重要性について考えてみたいと思います。
インシデントとアクシデントの違い
まず前提として、リスクマネジメントにおいてよく使われる「インシデント」と「アクシデント」の違いを整理しておきましょう。医療や製造の現場では広く浸透している考え方です。
- インシデント(ヒヤリハット):誤った操作や判断をしたものの、直前で気づいたり運良く害が及ばなかったりした「重大な事故になりかけた事象」
- 例:重要なファイルの削除ボタンをうっかり押しそうになったが、直前で気づいて思いとどまった
- アクシデント:実際に誤った操作が行われ、実害や損害が発生してしまった「事故・事件」
- 例:実際に削除ボタンを押してしまい、重要なデータを消失させてしまった
労働災害における経験則である「ハインリッヒの法則」では、1件の重大な事故(アクシデント)の背景には、29件の軽微な事故があり、さらにその背景には300件のヒヤリハット(インシデント)が存在すると言われています。

つまり、重大な事故を防ぐためには、その手前にある「300件のインシデント」を早期に拾い上げ、対策を打てるかどうかが勝負となります。
個人の注意力に頼らない「仕組み化」のアプローチ
しかし、現場でインシデントが起きた際、多くの組織でありがちなのが「個人の注意不足」に原因を求めてしまうことです。
「もっと注意して作業しなさい」「集中力が足りないからだ」と個人を叱責し、反省を促すだけで終わらせてしまうケースは少なくありません。
特に、過去にミスが少なく高い成果を出してきた優秀な管理者ほど、無意識に自身の感覚を基準にしてしまい、「ミスが多いダメなやつ」と部下にレッテルを貼りやすくなります。
しかし、新しく入ってきた新人や中途社員が、最初から自分と同じ能力や注意力を備えているわけではありません。また、処理手続きでミスをしがちであっても、実は素晴らしいアイデアを持っていたり、顧客対応に長けていたりと、別の部分に強みを持っている可能性もあります。
重要なのは、「ミスをした個人を責める」のではなく、「ミスが起こりうるシステム(環境・仕組み)の不備を疑う」姿勢です。
例えば、重要データを消しかけた際に「今後は気をつけろ」と注意するだけでは再発を防げません。
「削除ボタンを押したときに『本当に削除しますか?』と確認ダイアログが表示される仕様に変更する」といった二重の防波堤をシステムとして構築することで、同じミスの再発を格段に減らすことができるでしょう。
個人の注意深さに頼らず、ミスが物理的に起きない構造(仕組み)に変えていくこと。これこそが、あらゆるメンバーが安心して力を発揮できる職場環境の土台となります。
仕組みを機能させる「心理的安全性」の壁
どれほど優れた報告システムや防止策を導入したとしても、それだけでリスクマネジメントが機能するわけではありません。
システムの不備を改善すると言いながら、いざインシデントが報告された際にミスをした本人を叱責してしまえば、現場はどう反応するでしょうか。
社員は「報告すると責められる」「何とか報告を免れないか」という思考に陥ります。結果として改善に必要な情報が集まらなくなり、有効な打開策が打てなくなってしまいます。さらには上司と部下の関係性が悪化し、仕組みの導入自体がマイナスに作用する悪循環すら生じます。
これを防ぐには、「ミスの報告によって個人を責めないこと」を大前提に置くことに加えて、「この人(この組織)になら正直に報告しても大丈夫だ」と思える「心理的安全性」が不可欠になります。
この関係性は一朝一夕で築けるものではありません。日々の小さな行動変容の積み重ねが必要です。
- 挨拶や相手への関心を日頃から示す
- 報告や質問を受けた際、第一声で「報告してくれてありがとう」と感謝や承認を伝える
- 相手の話を聞くときは、作業の手を止めて向き合う
こうした日常の接し方の変化が、「失敗を隠さずオープンに共有し、全員で仕組みをアップデートしていく文化」を育てていきます。
導入例:トヨタ自動車の「ポカヨケ」
こうした「人間はミスをする前提」に立ち、仕組み化を徹底している代表例がトヨタ自動車の取り組みです。
トヨタの工場では、作業員が日々の仕事の中で「ヒヤッとしたこと」を報告する活動が昔から定着しています。そこで活用されているのが「ポカヨケ(うっかり=ポカを避ける仕組み)」という考え方です。
単に「気をつけろ」と注意するのではなく、例えば「パーツを取り忘れそうになった(インシデント)」という報告があれば、「パーツを全種類取らないと、次の組み立て機械が動かない仕組み」を物理的に工場内に組み込んでしまいます。
現場からの素直な報告を歓迎し、それを物理的・システム的な仕組みへと落とし込む。これこそが、心理的安全性とリスクマネジメントが融合した理想的な形と言えます。
まとめ
リスクマネジメントの本質は、個人の不注意を責めることではなく、組織全体でミスを防ぐ仕組みを更新し続けることにあります。
そして、その仕組みを動かす原動力は現場からの素直な報告であり、それを支えるのが日々の心理的安全性です。
自社のリスク管理が「注意喚起」だけで終わっていないか、今一度見直してみてはいかがでしょうか。
では、また!



コメント